20年目の「パラサイト・イブ」と瀬名秀明
授業の担当やカリキュラムの関係で、数年ぶりに「細胞の構造」の講義をしました。
核やミトコンドリアや葉緑体の構造と働きについて説明しました。ミトコンドリアは好気呼吸(酸素を使って有機物質を分解して生命活動に必要なエネルギーを得る過程)の、葉緑体は光合成に特化した、細胞内の小器官です。
このミトコンドリアと葉緑体「細胞内共生説」ミトコンドリアは好気呼吸をしていた微生物がより大きな微生物に取り込まれ、その中で生き続けたものであり、取り込んだ生物は真核生物の祖先となった。その祖先がさらに、光合成をしていた微生物を取り込んだものが葉緑体を持つ植物細胞の祖先となったという説です。ミトコンドリアや葉緑体が内外二枚の膜で出来ていること、遺伝物質DNAを持っていること、細胞の中で分裂して数を増やすことから考えられました。
この細胞内共生説が、あるいはミトコンドリアが一気に有名になったのは平成7年のベストセラー小説「パラサイトイブ」に因るところが大きいと思います。第2回日本ホラー文学賞を取った瀬名秀明氏のデビュー作。
映画化もされました。
事故で亡くなった愛妻の肝細胞を密かに培養する生化学者・利明。Eve1と名付けられたその細胞は、恐るべき未知の生命体へと変貌し、利明を求めて暴走をはじめる――。空前絶後の着想と圧倒的迫力に満ちた描写で、読書界を席巻したバイオ・ホラー小説の傑作。
れ細胞内共生説が題材になっていて、取り込まれたミトコンドリアが10億年の雌伏の時を経て、地球(人類だっけ?)を乗っ取ろうとするというお話だったかと思います。
映画化された頃には、「パラサイトイブ」の記述について質問に来る学生もいましたし、物質工学科を志望するきっかけになった学生もいました
。 パラサイトイブの発刊から20年目の平成26年。細胞内共生説の話しのついでに、学生に聞いてみました。
僕「パラサイトイブって知ってる?」
学生「(微妙)」
僕「映画にもなったんだ。三上博史主演で。三上博史ってわかる
」
学生「(微妙)」
僕「明日、ママがいないの杖ついている人。三上博史が生物の研究者なのよ。」
学生「あー」
僕「葉月里緒奈(知らないだろうな)っていう綺麗な女の人が出ていてね。それで、葉月里緒奈がミトコンドリアなのよ」
学生「え〜〜」
ミトコンドリアの模式図(三絶堂 | 生物学フリー素材)
を書いた後だったので、混乱しているだろうと思われます。
僕がパラサイトイブが気になる理由というのは、学生や世間一般の方々に生物学に興味を持たせてくれたという事もあるのですが、作者へのジェラシーもあります。
学部は違うのですが、同じキャンパスにほぼ同時期に通っていました。 生物学の知識は負けないけど、向こうはベストセラー作家。くやしいな、と。
その後も瀬名氏はSF小説を書き続け、SF小説協会の会長にもなっているらしいです。
名前はたびたび目にしてきましたが、SFはあまり好きではないので、パラサイトイブ以外は読んでいませんでした。
さて、今日、思い違いをしていることに気が付きました。 昨年、実家ではじめて大学の卒業アルバムを発見しました。卒業アルバムの購入申込書が実家に届いていて、母が注文して実家に郵送してもらっていたが、忘れてたという事でした。 ブログを書くのにあたって、瀬名氏の入学年と本名をはじめて確認しました。そして、初めて卒業アルバムで確認しました。
同期生でした。
僕は就職をしてから遅れて博士号を取り、その後で大学院在学中の瀬名氏がパラサイトイブを発表という時系列から、彼は後輩だと思っていました。
入学年、卒業年は同じ。僕は就職するためにさっさと大学院をやめ、彼は小説を書くためにゆっくりと大学院に在籍していたということでした。
同期、しかも共通の知り合いもいるようです。
なんだか、急に親近感が湧いてきました。
いまは次の長編をこつこつと書いているところです。たぶんいままででいちばん難しい題材とテーマなので、調べ物もなかなか大変……。ですが作品自体はなるべく読みやすくスピーディな文体を心がけています。20年前の『パラサイト・イヴ』のころに戻った気持ち。まだいつ皆さまのお手元へお届けできるかはっきりしたことはいえませんが、努力します。
「不評を集める」というのをやってみましたが、やはり読者の方からも「悲しくなるからやめて」という声があるので(大森望さんからは「ブログが荒れているというとふつうはコメント欄が荒れるものだが、瀬名さんの場合はブログ自体が荒れている」といわれたw)、いったんここでやめておきましょう。
なんか、色々大変なようですが(ブログ自体が荒れているって...)、応援したいと思います。あと、本読もう。